男女逆転
以前、8年ほどお付き合いさせてもらっていた相手が居たのだが、我儘な私によく尽くしてくれる良い人だったのだけれど、最終的に私がフッた理由がまさに千年の恋も冷めるような相手の一言だったのだ。
「仕事と俺、どっちが大事?」
と、真剣に言われたことで、一瞬にして私の恋愛は終わりを告げた。
世間からすると全く逆の、普通は女性側から言うべきであろう台詞を、男側が言ってきたのだ。
当時、私は社会人3年目くらいで一人暮らしをしていたのだが、掛け持ちのように自宅で仕事を始めたのだからあまり時間が取れなくなった。
そうでもしないと生きていけないのが、現代人の悲しいところ。
当時相手は大学四回生で、バイトもせず実家暮らしで気楽に過ごしていた。
家賃等もちろん払わないし、親から車だって譲ってもらって保険料なんてもちろん払わない。
小遣いも貰い、家電製品なんて望めばすぐに湧いて出るわけだ。
よく有りがちなパターンのこの二人がうまくいくことなんて、100%ありえなかった。
「仕事しないと生きていけませんけど!」
と、嫌悪感まるだしでそう言ったのが私の別れ文句でもあったのだが、それ以降もちろん彼とは連絡を取っていない。
就職をして一人暮らしをするとか何とか言っていた気もするが、そうなって初めて仕送りもない一人暮らしの苦労がわかったのではないだろうか。
それから数年の月日が経ったので、彼もきっと結婚のひとつもしていることだろう。
互いに右も左もわからぬ学生の内からひっそり付き合うような間柄だったのでいい経験となったのだが、私は男から言われたその一言がトラウマというか“恋人なんて面倒臭い”と感じてしまうようになり、お陰様で数年間恋人を作らない気ままな生活を送らせてもらっている。